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ぶちくらせ問題

サッカーJ2ギラヴァンツ北九州のサポーターが応援で使っている「ぶちくらせ」という言葉をめぐるニュースを、夏頃から目にするようになった。
応援の言葉として適当かどうか賛否両論を巻き起こしている、というニュースに始まって、クラブが使用禁止にしたのに継続して「ぶちくらせ」を使い続けたサポーター14名を無期限入場禁止にしたというニュース、サポーターの言い分を伝えるニュースも読んだ。


私は北九州市出身なので、「ぶちくらせ」と聞いてもちっとも怖いと感じないが、夫は東京出身なので、「ぶちくらせ」というのは恫喝されているのかと思うほど恐ろしく感じるらしい。
そういうふうに感じる人がいるんなら、「ぶちくらせ」以外の言葉を探したほうがいいんだろうなあと私は思っている。
でもまあ、今回書こうとしているのはそのことではなくて、「ぶちくらせ」の意味のことだ。


例えば、朝日新聞デジタル7月4日の記事には、こんなふうに説明されていた。

国立国語研究所の木部暢子教授(方言学)によると、「くらす」には「倒す」だけではなく、「殴って倒す」という意味も含むという。「不良が『くらすぞ』と言うときは、『ぼこぼこに殴るぞ』という意味合いで使っている」。強調語の「ぶち」が、「くらす」をさらに強めており、木部教授は「応援にはふさわしくないのでは」。

この説明は半分も正しくない。
「くらす」「ぶちくらす」は使われる場面によって、意味が全く変わってしまうのである。
喧嘩しているときに「ぶちくらすぞ」と言えば、確かに「ぼこぼこに殴るぞ」という意味、もしかしたらもっと強い意味になるのだけど、仲の良い友達同士でふざけているときに「きさん(貴様)くらすぞ」と言えば、「お前、やめろよ」という意味である。
くすぐられて息が苦しくなったら「きさん、くらすぞ」、からかわれたら「きさん、くらすぞ」、机に落書きされたら「きさん、くらすぞ」、男の子がものすごく頻繁に使う言葉なのだ。
私の幼馴染も小学校に上がる前から使っていた。
そういえば近所のパンチパーマのおじちゃんが、じゃれついてくる飼い犬を撫でてやりながら、「きさん、くらすぞ」と言っていた。思い出した。
この意味はもちろん「お前を殴り殺してやる」ではなくて、「もう可愛くて可愛くて、食べちゃいたいくらいだ」ということだ。
ミス花子の「河内のオッサンの唄」に出てくるオッサンが、言葉は荒いかもしれないけど、情には厚くやさしいというのに似ている。あの歌を聴いたとき、私はすでに炭焼きになっていたが、北九州にもこういうおじちゃんいたなあ、懐かしいなあと思った。夫は訳のわからない理由で怒られている自分を連想して、落ち着かない気持ちになったらしい。


言葉はきつく聞こえるのかもしれないけれど、言った本人が怒っていない限り、意味するところは全然きつくない。
そういうこともニュースでは伝えてあげたほうが、いいんじゃないのかなあと思う。
「ぼこぼこに殴るぞ」「殴り倒せ」という意味はあるんだけど、すごーくカジュアルに使われる言葉でもあるということを。
サポーターの子たちも、そんな恫喝するようなニュアンスで言葉を使っていないはずなのだ。
敵味方に分かれているにせよ、対戦チームに対するリスペクトの気持ちを持ったうえで「ぶちくらせ」と言っているはずだ。
そうだとしたら、野球の応援で「かっとばせー○○、××倒せー、おー」と言っているのと、ニュアンスとしては同じことなのだ。
ただし、言っている本人としては、ということ。
言われている相手はとっても嫌かもしれない。


もっとも私が北九州を離れたのは数十年前のことなので、現在の「ぶちくらせ」の意味は私の時代とは違ってきているのかもしれないけれど。
それから、「くらすぞ」という言葉を頻繁に使うのは、北九州全体のことではなくて、一部の地域のことなのかもしれない。河内のオッサンの言葉が大阪全体の言葉を代表するわけではないように。



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あんたたち、ぶちくらすよー





(妻)












by binchosan | 2015-11-14 20:24 | 日々雑記

紀州備長炭、土佐備長炭と並ぶ三大備長炭の産地、日向。日向の国、宮崎県の宇納間で備長炭を焼いています。お問合せは domasama8080@gmail.com


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